AIカメラ・画像認識での外観検査-気をつけるべきポイントとは?
- 俊徳 大山
- 10月10日
- 読了時間: 7分
更新日:10月15日

近年、製造業や農業等様々な産業の現場で外観検査のAI導入が進んできています。一方、AI導入においては「必要な学習データを十分に確保できるのか?」「現場の環境が変わることで、精度が低下するのではないか?」「実用に耐えうる処理スピードやコストを実現できるのか?」といった様々な落とし穴が存在します。
本記事では、外観検査AIが直面する典型的な課題と、その現実的な解決策を専門的に解説します。
AIカメラ・画像認識技術を活用した外観検査が広がる背景
製造業における外観検査は、従来は熟練作業員の目視に大きく依存してきました。しかし人材不足や技能伝承の困難さ、多品種少量生産への対応、品質保証基準の高度化により、近年はAIによる自動外観検査の導入が急速に進んでいます。

実際、ディープラーニングを活用した画像処理ソフトウェアや産業AIカメラ等に牽引され、産業用AI画像処理システムの市場規模は、2028年には2024年比88.6%増の594億円に成長する見通しです。
外観検査AIの導入におけるよくある課題
外観検査のAI導入は急速に進んでいますが、実際の導入や現場への定着を行うにあたり、様々な落とし穴も存在します。
学習データの確保 (特に不良品のデータ)
一般的にAIモデル (ここではディープラーニングを使用したモデルを指します) の性能は「どれだけ多様で代表的な学習データを集められるか」に直結します。
外観検査の現場では、正常な製品のデータは一般に大量に収集できることが多い一方、不良品はそもそも発生頻度が稀であることが多く、十分な学習データを確保できないことがあります。
環境変動への脆弱性
AIモデルは、学習データと実運用データの分布が少しでもずれると性能が急落することがあります。外観検査においては、以下の環境変化が典型的な要因です。
照明強度や角度が変わる → 影や反射が変化し、誤検知が増える
カメラ位置がずれる → 視差によって特徴抽出が狂う
背景や搬送コンベアの色が変わる → AIが不要な特徴に注目して誤判定
判定スピードやコストの問題
ディープラーニングは通常計算リソースを大量に消費します。ResNetやVision Transformerなど高精度モデルは数億パラメータを持ち、GPUクラスタでの処理が前提となります。
加えて、製造ラインでは1製品あたり10ms以内の応答が必須となることもあり、判定が遅れると検査工程そのものがボトルネックになります。
このような問題から、「GPUを大量導入したことで電力コストが膨らむ」「十分な判定スピードを実現できず、実用化に至らない」といった課題が発生することがあります。
継続的な運用
AIが「なぜその判定を下したのか」を説明できない問題は、品質保証部門にとって深刻です。例えば、「この部品を不良と判定した理由は?」と問われても、AIが人間に分かる言葉で、判定の理由を説明することは通常のモデルでは困難です。
この「説明可能性の欠如」は、AI導入の大きなハードルであり、特に規制産業ではXAI(Explainable AI)の研究が求められています。
アルジェントテクノロジーが想定する対策例
前章で述べたように、AIカメラや外観検査AIには多くの落とし穴があります。学習データのい確保、現場環境の変化への体制、十分な判定スピードの確保やコストの抑制、説明可能性の確保、といった問題には、通常のAIソリューション企業では対応できないことも多いです。
一方、アルジェントテクノロジーは、長年培ってきた高速画像処理・画像認識・三次元計測の技術力を基盤に、これらの問題も想定した最適解を提案することが可能です。
十分な学習データが確保できない問題への対策例
AI導入時に最も大変でコストを圧迫するのがデータ収集とアノテーションです。
弊社は十分な学習データをお持ちでないお客様であっても、データ拡張やアノテーション自動化等の技術により、学習データの調達コストを抑えることが可能です。
データ拡張:回転、ノイズ付与、GAN、別のディープラーニングモデルによる不良データ生成で不足分を補う
アノテーション自動化:クラスタリングや異常検知を活用し、手作業を大幅削減
加えて、先で述べたような不良品データを十分に確保することが難しい問題に対しても、弊社では
半教師あり学習:少量の不良サンプルでも高精度に異常を検出できる学習方法
教師なし異常検知:正常データのみでモデルを学習し、そこからの逸脱を異常とみなす方法
等の方法を組み合わせることで、不良データが不足する現場でも機能するAIモデルを提供することが可能です。
環境変動への脆弱性への対策例
現場環境の変化はAIモデルの精度に大きく影響します。アルジェントテクノロジーではAIモデルの構築だけでなく、撮影環境の最適設計まで含めたトータルサポートを行うことで、現場でも機能するAIの提供を実現しています。
照明:リング照明、同軸落射、拡散光などを対象物に応じて組み合わせ、影や反射を最小化
カメラ配置:多方向撮影や最適角度設計で死角をなくし、欠陥を見逃さない
レンズ選定:歪み補正や解像度最適化により、正確な特徴抽出を可能に
これは、特に金属部品など反射特性が変動しやすい現場で高い評価をいただいております。
判定スピードの確保・計算コストの抑制
ディープラーニングは汎用的な異常検知が可能である一方、処理速度の面で十分なパフォーマンスを出せないケースがあります。また、すべての処理をディープラーニングで賄うことは、計算コストの増加にもつながります
アルジェントテクノロジーが他社と一線を画す部分として、高速性・軽量処理に特化した画像認識・画像処理手法、高速画像処理を得意としていることが挙げられます。
具体的には、FPGAや古典的画像処理と呼ばれる技術領域の知見を持っています。
※高速画像処理について詳しく知りたい方は弊社記事「AI画像認識・高速画像処理で変わる外観検査」もご参照ください。
「単純な欠陥検出はFPGA+古典的画像処理」「複雑な判定はディープラーニング」という役割分担を徹底することで、十分な判定スピードを確保しながら、十分な精度を実現するシステムを提供しております。
FPGA+古典的処理の役割
傷、欠け、異物といった明確な特徴は古典的手法で十分対応可能
FPGAに実装することで10ms以下の処理を安定稼働でき、ライン速度を落とさない
照明や撮影条件を工夫すれば、ディープラーニングに頼らずとも誤検知を抑制可能
ディープラーニングの役割
微妙な外観差異や人間でも判定が難しい不良を補完
学習ベースで進化できるため、多品種対応に強みを発揮
持続可能な運用体制の設計
AIシステムは導入して終わりではありません。ライン移設、照明劣化、カメラ交換など、環境変化に応じてモデル更新が必要です。弊社は 「現場で長く使える仕組み」 を重視しています。
モデルの再学習支援:クラウドとエッジを組み合わせ、現場からデータを自動収集し、効率的に再学習
メンテナンスフローの明確化:現場担当者が容易に調整できるようUIや手順を設計。
費用対効果を重視した更新サイクル:全更新ではなく部分的なチューニングで精度を維持
これにより初期は高精度だったが、数か月で使い物にならなくなったという失敗を防ぎます。
現場密着型の導入支援
弊社のもう一つの強みは、現場オペレーションに即した導入支援 です。
操作性の高いインタフェース設計
現場作業員が結果を理解しやすい可視化(Grad-CAMなど)
誤検知が発生した際の原因追跡を可能にするログ機能
これにより「AIの判定根拠が不明瞭で現場が不信感を抱く」という典型的な導入失敗を防ぎます。
まとめ
AIカメラや外観検査AIは大きな可能性を秘める一方で、学習データの確保・環境変動への耐性の確保・判定スピード・コストの抑制といった様々な落とし穴・論点があります。
多くの企業がPoC段階でつまずくのは、この課題を十分に考慮していないためです。
弊社アルジェントテクノロジーは、高速画像処理とAIの強みを組み合わせた独自の外観検査ソリューションと、実際の製造現場に密着した導入支援スタイルにより、落とし穴を回避しながらAIの利点を最大限に引き出す仕組みを提供します。
アルジェントテクノロジーの外観検査・画像認識
株式会社アルジェントテクノロジーは、高速画像処理・画像認識・三次元計測 に強みを持つテクノロジーベンチャーです。
FPGA+古典的画像処理+AIを融合したハイブリッド検査設計
撮影条件・照明設計からアノテーションまで一気通貫で支援
数msレベルの超高速処理を低コストで実現
製造業・農業・インフラ、半導体、食品、医療機器等、幅広い産業での外観検査自動化に対応可能です。共同開発やPoCパートナーを募集していますので、是非お気軽にご相談ください。



