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画像認識・高速画像処理で変わる外観検査

  • 執筆者の写真: 俊徳 大山
    俊徳 大山
  • 2 日前
  • 読了時間: 9分

更新日:6 時間前


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外観検査は製造業の品質保証に欠かせない工程ですが、人手依存や処理速度の制約が大きな課題でした。


近年はFPGAを活用した高速画像処理が普及し、1製品あたり10ms以下の判定 や GPU比で2〜10倍の電力効率改善が実証されています。


自動車部品ではバリ・キズ検出、食品工場では異物混入防止、半導体ではμm単位の欠陥検出、医薬品では錠剤の全数検査が可能となり、従来比で10倍の効率化を達成する事例も報告されています。


本記事では業界別の一般事例と研究成果を整理し、高速画像処理が生産現場にもたらす具体的な価値を解説します。



  外観検査の重要性と人手の限界


製造業における外観検査(visual / surface inspection)は、製品の表面における傷・キズ・凹み・色むら・成形不良・異物混入などを検出し、不良品を除去する工程です。これは品質保証・クレーム削減・ブランド維持に直結するため、高い精度と信頼性が求められます。


伝統的に、この検査は熟練作業員による目視検査または抜き取り検査(サンプリング検査)が中心でした。目視による検査は以下のような問題を抱えています:


  • 作業員の疲労・集中力低下による誤検知・見逃し

  • 多品種・変種対応が難しい

  • ライン速度が上がると対応困難

  • 夜間作業や照明環境等によるばらつき


また、抜き取り検査では見逃された不良が出荷されてしまうリスクがあります。


これらの課題を解決すべく、自動化・画像認識・高速処理技術への移行が進んでいます。しかし、検査速度・レイテンシ(遅延)・コスト・検出精度のトレードオフが存在し、特に高速ラインでの導入では「速度」がボトルネックになるケースが多いのが実情です。



  高速画像処理とは何か


そのような背景のもと、近年では外観検査において、下記を目的とした高速画像処理技術の導入が進んできています。


  • スループットの向上:1分あたり/時間あたりに検査可能な製品数の増大

  • レイテンシの低減:1製品あたりの検査時間の削減 (ミリ秒単位の応答等)

  • 処理負荷の削減/コスト効率の改善:電力コストや装置価格に対する性能改善

  • 誤検知あるいは見逃し率の改善:精度を保ったまま速度を上げることで、不良品判定の品質を維持または向上させる


製造ラインでは、コンベア上を流れる製品1つに割ける検査時間は非常に限られます。たとえば食品包装ラインでは毎分1,000点近い製品が流れることがあり、1個あたりの検査時間は 10ms以下 に制約されることもあります。10ms処理とは「1秒間に100枚以上の画像を処理する」ことを意味します。


このような速度での画像処理には、一般的な画像処理と異なり、下記のような技術が必要とされます。



  FPGA を中核とする低レイテンシ処理


FPGA(Field Programmable Gate Array)は、回路設計レベルで画像処理のパイプラインをカスタマイズできるため、並列処理とパイプライン処理がしやすく、レイテンシを最小化できます。特に以下の点で優れています:


  • パイプライン設計:全画素処理を並行して進め、入力→前処理→特徴抽出→判定という流れを遅延なく流す

  • 固定機能演算ブロック(DSPブロック)やオンチップメモリを活用して、外部メモリアクセスを極力削減

  • FP16, 固定小数点などの量子化(quantization)を使い計算量・データ転送量を抑制


たとえば、OpenCLを使った FPGA マシンビジョンアクセラレーションの記事では、GPU と比べて性能/ワット比(performance per watt) で 2~10倍の改善が可能という記述があります。



また、MobileNetV2 を FPGA 実装した例では、CPU上で実行した場合と比べて20倍の速度向上を実現したとする研究があります。これは典型的な CNN 推論処理を高速化したもので、画像分類タスクで3.75ms/画像の処理速度を報告しています。




  古典的画像処理の活用


すべてをディープラーニングで処理するのではなく、前処理や特徴抽出、欠陥強調などの古典的手法を使い、その後の判定部や異常検知を AI に委ねる構成の方が速度・コスト・メンテナンス性の観点で現場向きです。

古典的処理では、エッジ検出(Sobel, Canny 等)、形状・パターンマッチング(テンプレートマッチング、SIFT/ORB 等)、色ヒストグラムによる色ムラ検知などが用いられます。



  使用するカメラ・撮影環境・光源の最適化


画像取得が前提ですので、以下が効率化に大きく影響します:


  • 解像度 vs 必要精度のバランス

  • フレームレート(fps)を上げるためのカメラ仕様

  • 照明条件(反射・影の抑制)

  • カメラレイアウト(アングル・カメラ距離)

  • データ転送およびI/O遅延の最小化



  外観検査における画像認識高速画像処理の活用事例



  事例:自動車部品(金属加工・樹脂部品)


背景と課題


自動車部品の外観検査は、キズ・バリ・打痕などを見逃すと重大事故につながるため、従来から熟練検査員による目視が行われてきました。しかし、自動車業界は「多品種少量生産」「短納期化」「人材不足」という三重苦に直面しており、全数検査を人手で行うのは現実的ではありません。


改善内容


FPGAを活用した高速画像処理を導入することで、従来1秒に数個しか処理できなかった工程が 10ms以下/個 で判定可能となり、ライン速度を落とさず全数検査 が可能になりました。実際、日刊工業新聞が報じた自動車部品メーカーの事例では、樹脂部品の外観検査に高速カメラと画像処理を導入し、作業員数を削減しながら検査精度を向上させたと報告されています。



  事例:食品工場(異物混入・印字検査)


背景と課題


食品業界における異物混入は、リコール・企業ブランド失墜につながる重大リスクです。従来は抜き取り検査や人手による目視で対応してきましたが、近年は消費者の安全意識の高まりから「全数検査」が求められています。


改善内容


画像処理装置を導入した食品メーカーの事例では、毎分1,000個以上 の製品をリアルタイムで検査可能になり、印字の欠けや包装不良の検知も同時に行えるようになっています。食品産業新聞のレポートによれば、包装前の最終工程で高速カメラとAI画像処理を組み合わせた検査システムを導入した結果、検査対象数は従来比で10倍以上 に増加しました。



  事例:半導体・電子部品(微細欠陥検出)


背景と課題


半導体やプリント基板の製造では、数μmレベルの欠陥が歩留まりに直結します。従来の検査方式では、演算負荷が大きく、全数検査を行うには処理速度が足りないという課題がありました。


改善内容


FPGAによる前処理を組み込むことでGPU単独処理と比べ 1/5の時間 で欠陥検査を実現しました。これにより、従来100ms/個かかっていた検査が20ms程度に短縮され、ライン速度に追従できるようになっています。



  事例:医薬品(錠剤・カプセルの品質検査)


背景と課題


医薬品の錠剤やカプセルは、欠け・変色・異物混入などがあると重大な健康被害を引き起こします。従来は抜き取り検査や一部自動化でしたが、「全数検査」には至っていませんでした。


改善内容


製剤機械技術学会誌に掲載された報告では、カメラと画像処理による自動錠剤検査システムを導入することで、数万錠/時間の処理 を実現。従来の人手検査と比べて検査スピードは桁違いに向上し、異常発見率も向上しました。



  昨今の高速画像処理の研究動向



  FPGA+HOG+SVM による非常高速物体検出(10,000 fps)


Long,et al., 2019では、FPGA プラットフォーム上で HOG+SVM を実装。背景の複雑さがある中でも 10,000 フレーム/秒(fps)という超高速での物体検出を達成しています。これは、


  • 検査時間がミリ秒未満/マイクロ秒に近づき、ライン停止なしで流せる速度へ

  • 画像取得 → 前処理 → 特徴抽出 → 判定のパイプライン全体の遅延を小さく抑制

  • 金属部品の加工欠陥検出、電子部品の歩留まりチェック、傷・バリ検知など



  画像分類モデル (MobileNetV2) の FPGA 実装による速度向上


Bai,et al., 2019では、MobileNetV2 を FPGA で実装し、ImageNet の画像一枚を 約3.75ms で分類可能と報告されています。これは CPU 上で同モデルを実行した場合に比べて およそ20倍の速度向上となります。


  • 判定ラグの短縮(1枚あたりの処理時間が短くなる)

  • スループットの向上(秒間処理枚数が大幅増加)

  • リソース使用効率および電力効率の改善(FPGA 実装であるため、電力消費あたりの性能が高い)

  • 適用分野:外観検査全般、色むら・変色の検出、パターン一致検査、電子部品の画像分類など。



  FPGA vs GPU の性能/電力比改善


Edge AI and Vision Allianceでは、FPGAs は GPU ベース実装と比べて 性能/ワット比で 2~10 倍 の改善が可能、とされてます。


  • 電力コストの削減:同じ処理を行う際に消費電力が少ない

  • 運用コスト・冷却コストの低減

  • 持続稼働性:熱設計や冷却要件が緩和され、現場での信頼性向上

  • 適用例:24時間稼働の工場ライン、高温・高湿度環境下、大量処理が必要な検査機器など



  高速画像処理の導入に向けたポイント


高速画像処理での効率化を実現するためには、例えば以下のポイントを適切に調整することが重要となります。


  撮影環境の最適化


  • 照明条件の統一(影・反射を抑える構造照明やリングライトなど)

  • カメラアングル・距離の統一

  • 解像度を必要最小限に抑えて処理負荷を削減


  古典的画像処理による前処理


  • ノイズ除去・輝度正規化・輪郭強調などを FPGA や専用回路で実施

  • 特徴抽出(エッジ・パターン・形状)を軽量アルゴリズムで実行し、AI判定を補助


  AI(機械学習・ディープラーニング)の導入ポイントの適切化


  • モデルの軽量化(MobileNet, Depthwise Separable Convolution など)

  • モデル量子化・量子ビット削減

  • バッチサイズの考慮(低バッチサイズでも効率良く動く設計)


  FPGA ハードウェア設計の最適化


  • メモリ帯域の最小化とオンチップメモリの活用

  • 並列処理・パイプライン処理の設計

  • データ転送遅延(I/O, PCIe など)の削減


  統合システム設計


  • カメラ‐照明‐画像取得‐処理‐排出までを一貫設計

  • ソフトウェアとハードウェア双方の設計チームによる協調開発

  • 運用後のデータフィードバックを活かした改善サイクル


一方、高速画像処理導入において、しばしば発生する問題として、次のような課題もあります。

  • 照明環境や反射・影の問題による誤検知

  • 製品位置・姿勢のばらつき(アライメントが取れていないと判定ミス)

  • カメラセンサー・レンズの物理的限界(画素サイズ・歪み)

  • FPGA 開発コスト・熟練技術者の必要性

  • モデルの更新や製品種変更時の再キャリブレーションの必要


これらを抑えるためには、アルゴリズム開発に加えて、撮影環境設計とハードウェア設計を統合的に実施することや、運用中のデータ収集とフィードバックを適切に推進する等のノウハウが要求されます。



  アルジェントテクノロジーの高速画像処理



弊社、株式会社アルジェントテクノロジー は、高速画像処理・画像認識・3次元計測領域での専門知見を持つテクノロジーベンチャーです。次の特徴をもっています:


  • 10ms 以下の超低遅延処理を圧倒的低コストで実現可能

  • 古典的画像処理+AI のハイブリッド構成、FPGA を含むハードウェア設計も含めたトータルソリューション

  • 最適な撮影条件設計、照明・カメラアングル・撮影環境のノウハウあり

  • 学習データ収集・アノテーション・モデル更新を含む運用サイクル支援


外観検査における「判定スピード」「検査数」「誤検知の低減」「運用コスト」の改善に興味をお持ちの企業様は、ぜひ一度ご相談ください。




株式会社アルジェントテクノロジー
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東京都渋谷区恵比寿二丁目28番10号 Shu BLDG 2920

代表取締役    赤瀬太一
取締役    糸山浩太郎、大山俊徳
主な事業内容    システム設計・開発、技術研究、戦略・経営・技術コンサルティング

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