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FPGA活用で実現するリアルタイム検査ライン ― 高速画像処理の最前線

  • 執筆者の写真: 俊徳 大山
    俊徳 大山
  • 10 時間前
  • 読了時間: 7分

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FPGA(Field Programmable Gate Array)を用いた高速画像処理は、製造業の検査ラインに革命を起こしています。CPUやGPUに比べて低遅延かつ省電力で、リアルタイム検査ラインの構築 に最適です。自動車、食品、半導体、医薬品といった幅広い分野で、10ms以下の処理速度と全数検査を両立し、不良流出リスクを大幅に削減。

今後のスマートファクトリー実現に向けた基盤技術として注目されるFPGAの実力を詳しく解説します。




  なぜ「リアルタイム検査」が必要か


製造業における検査工程は、製品品質を保証する上で避けて通れないプロセスです。外観検査や寸法検査を正しく行えなければ、不良品が市場に流出し、企業のブランド価値を毀損するだけでなく、多額のリコールコストにつながります。


従来の検査は目視検査オフライン検査に依存してきました。しかし、近年は以下の理由から「リアルタイム検査」への移行が急務となっています。


  • ラインスピードの高速化:食品包装や電子部品では、毎秒数十〜数百個が流れるケースもあり、後工程に持ち越す検査では追いつかない。

  • 多品種少量生産:バリエーションが増え、検査の切替や柔軟性が必要になった。

  • 人手不足と技能伝承の問題:熟練検査員に依存できず、機械化が不可欠。

  • 品質保証の高度化:消費者の品質要求は年々高まり、抜き取りではなく「全数検査」が求められる。


この「リアルタイム検査」を実現するための中核技術がFPGAを活用した高速画像処理です。




  FPGAとは何か ― GPUやCPUとの違い



FPGAは論理回路を自由に構築できる半導体で、並列処理に強く、数ms~10msの低遅延と低消費電力を両立できます。CPUは逐次処理中心で遅延が大きく、GPUは高演算性能を持つ一方で100ms超の遅延や高消費電力が課題です。FPGAは柔軟性と効率性でリアルタイム検査に最適です。



  FPGAの基本構造


FPGA(Field Programmable Gate Array)は、ユーザーがハードウェアレベルで論理回路を自由に設計できる半導体デバイスです。内部には以下の構成要素があります。


  • ロジックセル(LUT, FF):基本的な演算処理

  • DSPブロック:行列演算や畳み込みを効率的に処理

  • オンチップメモリ(BRAM):遅延を減らし高速アクセス可能

  • I/Oインタフェース:カメラやセンサーからの入力を直接処理


これにより、画像処理のパイプラインをハードレベルで最適化でき、GPUやCPUと比較して圧倒的な低レイテンシを実現します。



  CPUとの比較


CPUは汎用性が高い反面、逐次処理が中心であり、数百ms単位の遅延が発生しやすい。リアルタイム性には限界があります。



  GPUとの比較


GPUは並列計算に強く、ディープラーニング推論には最適ですが、処理のオーバーヘッドやデータ転送による遅延が大きく、100msを超えることも少なくありません。また、消費電力が高いのも課題です。



  FPGAの強み


  • 数ms〜10msの超低遅延処理

  • 低消費電力(性能/ワット比でGPU比2〜10倍改善)

  • 柔軟なカスタマイズ性(古典的画像処理やAIを組み合わせ可能)




  リアルタイム検査ライン実現に求められる技術



リアルタイムで外観検査を行うためには、単に高速なカメラや処理装置を導入するだけでは十分ではありません。実際の現場で安定して10ms以下の処理を達成するには、撮影環境の最適化・軽量かつ堅牢な画像処理アルゴリズム・FPGAとAIの適切な役割分担 が必要です。ここでは、それぞれの技術要素をより深く解説します。



  撮影環境の最適化


高速画像処理の性能は、カメラが捉える「入力画像の品質」に大きく依存します。

照明が不均一で影が生じる、反射が強すぎて白飛びする、カメラの解像度が不足して微細欠陥が映らない ― こうした状態では、どれほど高度な処理アルゴリズムを導入しても精度は上がりません。


よく活用されるノウハウ


  • 照明技術:リングライトや同軸落射照明を用いて影を抑制。食品や金属表面では拡散光を使い、反射を防止。

  • 多方向撮影:1台のカメラでは死角が発生するため、複数台を配置して全周囲から撮影。樹脂成形品や自動車部品で特に有効。

  • カメラ性能:ライン速度に応じて1,000fps以上の高速カメラを選定し、ブレのない画像を取得。



  AIとのハイブリッド


古典的手法だけでは対応が難しい「異常形状」や「学習データの多様性」が求められるケースでは、AIが活躍します。ここで重要なのは 「FPGAとAIの適材適所」 です。


  • FPGAでの前処理:ノイズ除去・特徴強調・単純な欠陥候補抽出

  • AIでの最終判定:深層学習による異常検出や複雑なパターン分類


このような役割分担により、処理速度を維持しつつ精度を担保できます。

さらに近年はAIモデルの軽量化技術が進展し、FPGAや組み込み環境でも利用可能になっています。


  • MobileNet / ShuffleNet:軽量アーキテクチャをFPGA上に実装

  • Pruning(枝刈り):不要な重みを削除し演算コストを削減

  • 量子化:ビット精度を下げて低演算リソース化



  運用ノウハウ


リアルタイム検査ラインを構築する際には、技術面に加えて「現場運用の知見」が成功を左右します。


  • データ収集とアノテーション:AI判定を行うには多様なサンプル画像が必要。欠陥率が低い場合はデータ拡張やシミュレーションで補う。

  • 照明・カメラの定期調整:導入後も光量や位置のずれが精度低下の原因になるため、メンテナンスが不可欠。

  • ライン統合:検査工程だけでなく、上流の製造データや下流の仕分け工程と連携させることで、トレーサビリティが強化される。


特に スマートファクトリー化を目指す企業では、検査データをMESやERPと統合し、歩留まり改善や生産計画に反映 する取り組みが進んでいます。



  産業別事例 ― FPGA活用の実例



  自動車業界:外観検査のリアルタイム化


自動車部品(樹脂・金属)の表面検査にFPGAを導入したメーカーでは、ライン速度を落とさず全数検査を実現。従来は1個あたり100ms必要だった判定を10ms以下に短縮しました。


  食品業界:異物混入防止


食品包装ラインにおける事例では、毎分1,000個以上の製品を高速カメラ+FPGAで処理し、抜き取りから全数検査へ移行。異物検知と同時に印字欠けや包装不良の検査も行えるようになりました。


  半導体・電子部品


半導体検査では、FPGAによる前処理とAI推論を組み合わせ、GPU単独比で1/5の処理時間 に短縮。これによりμmレベルの欠陥をリアルタイム検査で検出可能に。


  医薬品


製薬工場の事例では、錠剤検査にFPGAベースの高速処理を導入し、数万錠/時間の全数検査を実現。欠けや変色をリアルタイムで検知しています。



  まとめ



FPGAを活用した高速画像処理によるリアルタイム検査ラインの実現は、製造業における外観検査のあり方を根本から変えつつあります。


これまでの検査は、人手に依存する目視や抜き取り方式が中心であり、ライン速度や製品多様化の進展に対して限界が顕在化していました。熟練検査員の不足や技能伝承の難しさは、国内外の多くの製造現場で共通の課題となっています。


そうした中で、FPGAによる10ms以下の超低遅延処理は、従来不可能だった「ラインを止めずに全数検査を行う」という仕組みを現実のものにしました。


GPUやCPUでは数十〜数百msかかっていた処理を大幅に短縮できるだけでなく、電力効率の面でも優位性を持ち、24時間稼働を前提とする工場環境において極めて有効です。


さらに、古典的画像処理とAIを適切に組み合わせることで、誤検知率を抑えつつ多品種対応を可能にし、食品・自動車・半導体・医薬品など幅広い業界で実証が進んでいます。


今後さらにAIの軽量化やエッジ処理技術が進展することで、より多様な業界・現場に導入が拡大していくと見込まれます。製造業の将来を見据える企業にとって、この潮流にいち早く対応することが優位性確立の鍵となるでしょう。



  アルジェントテクノロジーの高速画像処理



弊社、株式会社アルジェントテクノロジー は、高速画像処理・画像認識・3次元計測領域での専門知見を持つテクノロジーベンチャーです。次の特徴をもっています:


  • 10ms 以下の超低遅延処理を圧倒的低コストで実現可能

  • 古典的画像処理+AI のハイブリッド構成、FPGA を含むハードウェア設計も含めたトータルソリューション

  • 最適な撮影条件設計、照明・カメラアングル・撮影環境のノウハウあり

  • 学習データ収集・アノテーション・モデル更新を含む運用サイクル支援


製造業・農業・インフラ分野等、リアルタイム検査に興味をお持ちの企業様との協業を幅広く募集しています。ぜひ一度ご相談ください。




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取締役    糸山浩太郎、大山俊徳
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